赤い車


ある人が新車を売った。
真っ白だったボディを真っ赤に塗装しなおして。

ある夜、彼が友人を乗せて都内の国道を走っていると、急に人影が前を横切った。
バーン!
ボンネットになにかが当たった。
「しまった! やってしまった!」
急停車し、あわてて車を降りてあたりを見る。だが人影はない。
「誰もいないぞ」
「じゃあ、犬かなにかをはねたんじゃないの?」
「うーん、人影だったように思うがなあ」
どこにもこれといった異常がないので、とにかくその場を離れ、途中に交番を見つけて立ち寄った。
「気のせいかもしれませんが、なにかをはねたようなんです」
警官はその場所に同僚を派遣したが異常は見られず、なにかあったら連絡をくれるということで、住所と電話番号を書いてアパートに帰った。
だが、朝になっても警察からはなんの連絡もない。
「じゃあ俺帰るわ」
一緒に連絡を待っていた友人も出ていった。
しばらくして、カンカンカンカンカンカン。
アパートの階段を駆けあがる音がする。
バーン!
玄関のドアを開けて、血相変えたその友人が入ってきた。
「おい、どうした」
「くるま、くるま、くるま、くるま、くるま……」
「車がどうした?」
「いいから来い!」
友人は彼の手をひっぱって彼の車を停めてあるアパートの前の駐車場へ走って行く。
「これ見ろ」
なんと、真っ白なボンネットに血のりが二つ、赤いてのひらの形にべったりとついているではないか。
あわてて警察に電話を入れる。だが、別になんの届け出も出てないし、実地調査してみたが痕跡すらなかった、という。

その赤いてのひらは……拭いても拭いても、洗っても洗ってもまったく落ちなかったそうだ。
気味が悪くなって、もうこの車には乗る気が起こらない。
しようがないのでそこだけヤスリで削り落とし、何も言わず塗装屋に持っていって真っ赤に塗り直してもらい、それを売ったのだという。
廃車にするのも怖かった、と彼は言っていた。

これはごく最近にあった話である。
だからおそらく、誰かがこの車に乗っているはずである。

(第一夜 16話)


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