肝だめし


イベンターのTさんの大学時代、サークルのメンバーで北陸地方へ合宿に行ったときの話である。
夜、肝だめしをしようと意見がまとまった。
近くの山に長い石段を上る古い神社がある。
男女ペアを組んで、順番にその石段を上って頂上のお社(やしろ)の前に、小石を置いて帰るという他愛ないものだ。さっそくペアを決め、順番をクジで決めたが、Tさんひとりだけ余ってしまった。
「ええよ、俺、ひとりで大丈夫やから」と、内心怖いくせに女の子たちがいる手前、虚勢をはった。しかもクジでは一番後というまたまた嫌なことになった。
日が暮れかかった頃、一組目が恐る恐る手を取り合って、神社へ向かった。
一方、脅し役というのがいて、石段のまわりの雑木林や薮の中に潜んでいて、女の子を驚かしたりする。
さて、いよいよ最後、Tさんの番になった。
「行ってくるぞ」と、胸を張ってひとり、暗がりの長い石段を上っていく。
中ほどまで上った頃、ころころころっと小石が足元を転がってきた。
一瞬びくっとしたが、(ああ、脅し役のやつらが驚かしているつもりやな)とまわりに友人たちがいると思うと、かえって勇気が湧いてきた。
足どりを早めてなおも石段を上っていくと、まわりの雑木林がざわざわと騒々しくなり、あたりからぴゅんぴゅんと小石が飛んでくる。それがお社に近づくにつれ増えてきて、とうとうTさんの身体に当たるようになる。「なにも石を当てることないやないか」と思いながら、ようやく石段を上りきり、お社の前に石を置いた。
さて、帰ろうと振り向いた。すると、子供が、びっしりすずなりに今来た石段を埋め尽くしている!
石段の脇にある薄暗い螢光灯に照らされた黒い影のような子供たち。
「あーっ!」と思わず声をあげると、さささっと子供たちは蜘蛛の子散らすように林や薮の中に身を隠した。
「わあーっ!」とTさんは、大声を上げながら夢中で石段を駆け下りて、仲間たちのところへ戻る。そして興奮した口調で今見たことを話した。するとみんな半ばパニック状態で合宿所へ逃げ帰ったのだ。

実は、Tさんが石段を上がりだした時、脅し役の仲間たちは全員引き上げていたのである。Tさんは、そのことを知らなかったのだ。
つまり、Tさんが山のお社にいた頃は、誰も周辺にはいなかったのである。

(第二夜 73話)


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