幽霊トンネル


Iさんは東京出身。だが青森の大学に入ったので八戸に住んでいる。
お盆になると、東京出身の学生数人が、ワゴン車で東京に帰るというのが恒例なのだそうだ。
Iさんが一年の時、この帰省に初参加した。
夜中十二時頃に出発すれば、朝の八時には都内に着くという。
運転をしていたのが四年のKさんで、助手席に三年のFさん、Iさんは後部座席にと男女六人が乗りこんだ。
夜中、十二時を少し過ぎて出発したが、Kさんが「このまま高速に乗るのもおもしろくねぇな。ちょっと寄り道していくか」と言う。真夏の夜中のこと、ちょうど車の中は怖い話で盛り上がっていたので、誰かが「じゃあ、あの幽霊トンネルに行ってみようぜ」と言い出した。「よっしゃ、ちょっと遠回りだけど、行ってみっか」とKさんがハンドルを切った。
トンネルまで二時間はかかる。そのうち怪談のネタも尽きて、みんなウトウトとしはじめた。起きているのはKさんとFさん、それに一年の身分から眠気を必死にこらえていたI君の三人だけになった。
真っ暗な山道をしばらく走る。
「おい、あれだよ、あれだよ」と運転席の方から声がする。ふと前方を見るとトンネルがある。ああ、あれが幽霊トンネルか、とIさんが思っていると、車はそのままトンネルに入った。
トンネルの壁に風を切る音とエンジン音が反射する。その時だ。
「あっ!」という声が前からあがった。
助手席にいたFさんが血相変えて、「おい、起きろ、起きろ」とみんなを起こそうとしている。
「なに、どうしたの?」とみんなが起き出した。
「これこれこれ!」と取り乱したKさんが、運転席の足元を指さしている。
「どうしたんです? 着いたんですか?」と後部座席の女の子たちが起き出した。
もうFさんは声も出なくなって、ただ、Kさんの足元のあたりを見ている。
「どうしたの?」と運転席のうしろにいた女の子が、運転席をのぞきこんだ。
「あ……」とその子も絶句したまま固まった。
えっ、とみんなが身を乗り出した。
「なにこれー!」と悲鳴があがった。
なぜか、どんどんと車のスピードが増している。
と、はっとしたFさんがなんとかサイドブレーキを引き、もうひとりの先輩が運転席に割り入った。車がキキキ----ッと急停車した。
その途端、「わああーっ」とみんながパニックになって、あわてて車から転がり落ちるように飛びだした。
実は、一番後部の座席にいたIさんは、大騒ぎしている先輩たちを見て、なにが起こっていたのかわからなかったらしい。ただ皆があわてて車から降りるので、訳がわからず一緒になって車から出た。
「なにがあったんですか?」と聞くと、
「車だよ!」と狼狽した先輩が車の運転席を指さす。
恐る恐る車に近づいた。
中でKさんは、ハンドルを持ったまま放心状態にあった。
Fさんたちが、Kさんの頬を数回叩いて放心状態を解いた。
その時、はじめてIさんは運転席で起こったことを聞かされたのである。
運転席の床の下から、二本の真っ白い手が現れて、一本の手がアクセルを踏んでいるKさんの足首を、ぐっと押さえていた、という。そしてもう一本の手が、ブレーキを踏もうとするKさんの足を手のひらで持ち上げて、ブレーキを踏もうとするのを邪魔していた。
あわてて、Fさんがサイドブレーキを引き、もうひとりの先輩が足を入れてブレーキを踏みこんだ……。


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