友人


数年前の話だ。

T君には同じ奈良の出身で同じ東京の大学に進んだ友人がいた。ところがその彼がうつ病になり、通院するようになった。
次第に症状がとても重くなっていくので、これは故郷で療養した方がよかろうということになり、奈良の実家へ帰っていった。
それからひと月もしないうちに、友人の訃報がT君の元に届いた。T君は奈良へとんで葬式に参列する。だがその死因については誰も何も語りたがらなかった。

ある夜、T君のアパートでのこと。
トイレに行こうと戸口を見ると、いつの間にかそこに死んだはずのその友人が立って、煙草を吸っている。懐かしい風景だ。というのも、ヘビースモーカーの友人は、煙草を吸わないT君の部屋へ遊びに来ると、遠慮がちにトイレの戸口に立って、煙草を吸っていたからだ。それと同じだ。T君は怖いという感覚はなく、むしろ(あっ、来てくれた)という嬉しさが先に立った。
その友人を見ていると、ふっと目が合った。すると音もなく歩み寄ってくる。寄ってくる、寄ってくる……。すぐ正面に立った。
T君をじっと見ている。
と、彼の頭が、がくんとうなずいた。うなずいて下を向いたまま、首が上に伸びて元にもどる。そしてまた、首が細長く上下する。やがてその勢いが増していき、激しく動きはじめた。肩から下はまったく動かないというのに。

がくん、がくん、がく、がく、がく、がくがくがくがくがくがくがく、がががががが……。

まるで猛烈なピストン運動のようで、速さに顔が見えない。
「たのむ! 成仏してくれ!」の叫び声に、その姿はかき消えた。
彼は首を吊ったのだ、と思った。

(第五話 14話)


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