気休め


Hさんが事故で入院している友人を見舞った時の話だ。
「元気?」と訪ねていくと、ひどく落ち込んでいる。
いつもは明るく陽気な彼女なので元気づけてやろうといろいろ話し込んでいるうちに「馬鹿にしないで聞いてくれる?」と真顔で言う。
「もちろん」と答えると「私、死ぬのかしら」と言った。
彼女は足の骨折で入院している。これぐらいでは死ぬこともないだろうと思ったが、そんなことは当の本人が一番知っているはずだ。
「どうして?」と聞くと、部屋の角を指して「夜ね、あそこに人が立つの」と言う。
まさかそんなことを言い出すとは思わなかったので、ひどく驚いた。
「どんな人が?」
黄色いヘルメットをした影のような男の人で、それが毎晩現れるので呼ばれているような気がする、という。Hさんは「何を馬鹿な」と本気で思ったが、なぐさめを言うより何かをやってみせて励ました方がいいだろうと考えた。
「ちょっと待ってて」とHさんは病院の売店から塩を一袋買ってきた。
彼女からお皿を借りて、
「いい? 清め塩をするからもう安心よ」
と部屋の角で塩を手にいっぱい握り、皿に盛ろうとした。その瞬間、手の中の塩が溶けて水のようにこぼれ落ちた。
皿はドロドロした塩水であふれそうになっている。
「失敗したからもう一回」と、あわてて給湯室にかけ込んだが、体中に鳥肌が立っていたという。洗った皿を持って部屋に入ると、友人の顔が明るい。
空気がすごくカラッとした、軽くなったと笑っている。
Hさんが念のため再び塩を盛ると、今度は皿の上に白い山ができたので、そのまま部屋の角に置いたという。
一カ月後、彼女は元気に退院した。

(第六夜 64話)


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